大判例

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長崎地方裁判所 昭和26年(行)3号 判決

原告 春田春義

被告 仁田村選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十六年四月十九日にした原告を長崎県上県郡仁田村補充選挙人名簿に登録しない旨の決定を取消す訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、「原告はかつて福岡市対馬小路に居住して居たが、長崎県上県郡仁田村大字飼所がその本籍地且出生地であるので、昭和二十五年三月頃、右飼所に転居することに意を決し、先ず同所に家屋の新築を始める一方、原告の母春田タネを福岡市から飼所に転居させ、原告自身も着々移転準備をして居た。ところが同年十月頃原告は長崎県会議員選挙が昭和二十六年四月に施行されることを知つたので、之に立候補しようと考え、被告に対して被選挙権の要件につき不明の点を問合わせたところ、被告は昭和二十五年十一月三日附で、原告が同年十二月二十八日までに仁田村に住所を移し選挙期日まで同所に居住して居れば、補充選挙人名簿に登録される旨回答した。そこで原告は同年十一月十七日福岡市長発行の転出証明書を得て同月二十五日仁田村飼所九百一番地に転入手続を終り、之と前後して家具類、日用品等多数を同所に搬送して、此所に生活の本拠を置くに至つたものである。然るに原告が昭和二十六年二月二十六日被告宛に、原告を仁田村補充選挙人名簿に登録するよう申請したのに対して、被告は右申請を同年四月三日附で受理しながらその登録をせず、之に対する原告の異議申立を、原告が引続き三箇月以上仁田村に住所を有した事実がないとの理由で、同月十九日却下し、その却下決定は同月二十四日原告に通知された。然し前述の様に、原告の住所は昭和二十五年十一月二十五日から仁田村に移つて居るから、被告の右却下決定は不当であつて、原告は本訴においてその取消を求める次第である。」と陳述し、被告の本案前の主張に対して、「原告が法定期間内に提出した訴状が不適式であるとしても、後の補充申立によつてその瑕疵は補正されて居る。又被告は本件口頭弁論の当初から此の点についての主張をすることなく応訴して来たから、既に之を主張する権利を失つて居る。よつて被告の主張は理由がない。」と答えた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、本案前の主張として、「原告は本件訴状(昭和二十六年四月二十九日附)を公職選挙法所定の出訴期間経過後に提出して居るから、本訴は不適法である。尚原告が右訴状の提出より前、出訴期間内に長崎地方裁判所に提出した異議申立書及び告訴状と題する各書面は、何れも請求の趣旨原因が不明で、訴状としては不適式のものであるから、後に補充申立がされても、右各書面の提出時に適式の提訴があつたことにはならない。よつて先ず訴却下の判決を求める。」と述べ、次に本案につき請求棄却の判決を求め、請求原因に対する答弁として、「原告が福岡市から仁田村飼所に転入する手続をしたこと。被告が原告の問合わせについて原告主張の趣旨の回答を与えたこと。原告が仁田村補充選挙人名簿に原告の登録を申請したが、被告がその申請を受理しながら之を登録せず、之に対する原告の異議申立を原告主張の理由で却下したこと。及び以上の行為或は処分が夫々原告主張の日に行われたことは、すべて認める。然し、原告が昭和二十五年十一月二十五日頃仁田村に生活の本拠を移したと言うことは否認する。被告は本件補充選挙人名簿登録申請について、昭和二十六年四月六日委員会を開き、原告が引続き宿泊して居る場所、その妻子の住所及び原告が家財を置き、祭祀をし、納税をする場所は、夫々何処であるかを検討した結果、原告は仁田村に住所を有しないものと認定し、その登録をしなかつたのであつて、右認定に何等誤りはないから、原告の異議申立を正当でないとして却下した本件決定に不当のかどはない。」と陳述した。(立証省略)

三、理  由

先ず本訴の適否を判断する。

原告が昭和二十六年四月三十日当庁に対して被告を被告訴人、原告を告訴人と表示する告訴状と題する書面を提出したことは本件記録上明らかであるが、その内容は被告が同年四月三十日の長崎県会議員選挙に際して、補充選挙人名簿の件につき実情を歪曲し、原告の当選を妨害したから再選挙を申請するというのであつて、その請求が如何なる法律上の根拠によるものか不明であるが、原告から之より先同年四月二十四日当庁に提出された補充選挙人名簿記載却下異議申立書と題する書面の趣旨をも参酌すれば、原告の請求は要するに、「被告は原告を仁田村補充選挙人名簿に登録せよ、」というにあることが窺われるから、右告訴状と題する書面は民事訴訟法所定の記載要件を一応具えた訴状であり、その論旨の不明な点は、その後同年五月十二日に提出された訴状と題する書面によつて一層明瞭にされたものと解するのが相当である。そうであるとすれば本訴提起の日は右告訴状提出の日である昭和二十六年四月三十日であつて、他方本件異議却下決定の通知が同月二十四日原告にされたとの原告の主張は、被告が明らかに争わず、之を自白したものとみなすべきであるばかりでなく、右原告の主張に反する事実を認めるに足る証拠もないから、本訴は同日から公職選挙法所定の一週間内に提起された適法の訴ということができる。被告の本案前の主張はその理由がない。

そこで次に本案について判断する。

原告が昭和二十六年二月二十六日被告に対して仁田村補充選挙人名簿に原告を登録すべきことを申請したが、被告が同年四月三日附で之を受理しながらその登録をせず、原告の異議申立に対して、原告が選挙期日まで引続き三箇月以上仁田村に住所を有して居ないとの理由で、同年四月十九日、決定で之を却下したことは、何れも当事者間に争がない。

原告は右却下決定が不当であると主張し、その理由とするところは原告は右期日まで引続き三箇月以上仁田村に住所を有して居たというにあるので、以下此の点について考えるのに、長崎県会議員選挙が昭和二十六年四月三十日施行されたことは公知の事実であるから、同日の三箇月前である同年一月三十一日から右選挙期日まで引続き仁田村に住所を有して居る者でなければ仁田村補充選挙人名簿に登録される資格はないわけである。ところがなるほど原告が福岡市から転出して昭和二十五年十一月二十五日仁田村に転入手続をしたことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第二第三第四号証、証人春田林太郎の証言によつて真正に成立したと認める甲第六号証、証人春田栄、糸瀬長光、春田兵衛、春田林太郎の各証言及び原告本人の供述を綜合すると、原告は元来同市対馬小路に妻子四人と共に居住して居たものであるが、仁田村飼所がその本籍地且出生地であつて、此所には以前から原告の母春田タネとその孫及び原告の兄春田兵衛が居住していること。原告は昭和二十五年五月頃母や兄の住家から距離約二町のところに起居できる設備を階上の一隅に有する倉庫二棟を新築し、又同年十一月末頃から翌二十六年二月初旬頃までの間数回に亘つて、福岡市から家具類、衣類、炊事道具等の幾何かを母の住家に運び込み、転入手続後は主食を同所で受配するのは勿論、福岡市から単身で前後二回位飼所に赴いて、同所に滞在して居たこと。及び原告の妻子も同年三月頃同所に行つてしばらく滞在していたことを、夫々認定するに十分であつて、以上の認定に反する証人川本晴光及び中村保の各証言は共に信用できず、他に右認定を覆えずに足る証拠もないから、斯様な事実から推論すれば、原告は転入手続をした昭和二十五年十一月末頃から仁田村に生活の本拠を移した様に考えられないでもない。然し、前段認定に資した各証拠及び証人川本晴光、小宮宏基の各証言を仔細に検討すれば、原告は福岡市下対馬小路に本店を有する対馬林炭、旭電機両株式会社の取締役社長であつて、仁田村の兄春田兵衛の住家に右両会社の連絡所を置き、今後も引続き両会社を経営する意向をもつて居ること。又原告は仁田村転入前には昭和二十五年五月中に約五日間、十月中に約二日間、転入後は同二十六年一月中約十日間、及び三月十二日頃から選挙期日頃まで夫々飼所に滞在したことがあるだけで、これを除けば、専ら福岡市に在つて妻子と共に起居し、会社業務に従つて居たもので、選挙終了後は全然仁田村に居らずに約半歳後の現在まで福岡市で生活をして居り、且仁田村転入後の主食の配給も、原告がそこに居ないときはその母がこれを受けて居ること。原告の妻子は当初から仁田村に転入せず、福岡市に居住していて、前示滞在の事実を除けば仁田村に赴いたこともないこと。並びに原告が同所に新築した建物は寧ろ倉庫に使用するために建てられたもので、かつて之を原告の住居に使用した事実はないことが、夫々認められるのであり、以上の認定に反する証人糸瀬長光、春田兵衛の各証言は信用できない。なお原告本人の供述中には、原告が仁田村に居住する意思をもつて居る旨の部分があるが、原告の様に社長をしている者が会社の本店所在地を去つて地理的に相当離れ、且その間の交通も不便な仁田村に居住することは、特段の事情の認められない本件においては頗る不合理なことであり、(此の点に関する証人糸瀬長光、春田兵衛の各証言はともに信用し難い。)又前に認定した、原告が選挙期日後全く仁田村に居住していない事実に徴しても、前示供述部分は直ちに信用することができず、他に原告の住居意思を肯認するに足る立証はない。以上の認定事実を全部綜合して考えると、原告が昭和二十六年一月三十一日以降引続き三箇月間仁田村に生活の本拠をおいて居たと判定することは誠に困難であつて、その他本件全立証によつてもその様に判定すべき根拠は何等認められないから、結局原告の主張は理由がないという外はない。

そうであるとすれば、被告が原告の異議申立を正当でないとして却下した本件決定は正当であつて、その取消を求める原告の請求は棄却を免れないものである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 林善助 厚地政信 吉江清景)

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